プロローグ

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 (うちゅう)から見た此方(ちきゅう)が綺麗な球体に見えたのは人の目が悪かったのか、脳が完全ではなかったのか。未だにそう見えている限り答えを見出すのは難しいだろう。  しかしながら、完全では無いにせよ球体であるのには変わりない。それが円形ではなく、前に()が付くだけだ。と言っても、限りなく円形に近いのは言うまでもない。  初めて外側への旅立ちに成功したアポロ十一号の乗組員は、プラトンやアリストテレスが地球球体説を唱えていなかった場合、当時の騒ぎはどうなっていたのだろうか。現代まで語り継がれる名言“The earth was bluish(地球は青かった)”は“The earth was round(地球は丸かった)”となるのか……?  何にせよ、先人の知恵が無ければ地球を出ようという発想はおろか、ここまで文明が発達する事は無かったであろうし、結局考えるだけ無駄である。    凝り固まった上体を解すように椅子の上で背伸びをし、釣られたように一つ欠伸を溢した。机に向かい続けて早五時間、やはり集中している際の時間の流れは侮れるものじゃない。  横六十センチ程度の小さな机。その右端の角に置いてある木製の、これまた小さな時計が時を刻む音を鳴らし存在を示す。  暗闇に光る白い月が、我が物顔で居座る今は十時三分。大人風に言えば二十二時三分か……どちらでもいいな。  集中の糸が切れた俺の身体はだらしなく力が抜けていき、滑る様にお尻の位置がずれていく。何気にこの体勢が結構好きだ。背骨に悪いだろうが。しかし、そんな事を一々気にしていては取れる疲れも取れない。頑張ったのだから少しくらいは、ね?  俺以外誰も居ない部屋で独り、疲れた笑みを浮かべる。  机の上に開いてあるノートは隙間なく字で埋め尽くされており、それが視界に入るだけでうんざりしてしまう。別に勉強は好きじゃないのだ。  今度は細い息を時間を掛けて吐き出し、もう一度時計を確認する。  現時刻は十時四分で……あ。  がらんどうな自室に姦しい電子音が響き渡る。  あぁ、唯一安らげる時間が――
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