第五回 ムシを愛でる日本人

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母語が日本語のS氏だから、英語のリスニングは不得意であるのは道理がある。あとでスクリプトを見て、こんなに簡単なことなのに聞き取れないなんて、落胆するときもある。 S氏が同僚のロシア人と都内の回転すしを食べに行ったとき、「日本人はRとLの発音を区別しないよ」と話をしたことに驚嘆の声を上げていた。 「じゃあさ、信号の右のサインはどう言うのだ」とおかしなことを聞いてきた。 確かにロシア語はなんか唸り声のような音がするなと感じていただけで、彼に言われこたとは何とも思わなかった。 兎にも角にも誰になんといわれようとも、S氏は、日本人だし、日本語は好きだ。 毎日が仕事やら雑用らで日々を過ごしていたある中秋の名月に数日と迫ったある秋の晩 「チョンチョン チョンチョン スイッチョン」という音が部屋の中まで聞こえてきた。 「うまおいだぞ」こいつはと独り言をいいながら、と同時になつかしさで自分が子供のころムシを補虫網で近所の子供らと一緒に捕まえて、虫かごにキュウリやニンジンなどをいれて飼育していたなと思った。 「うまおい」の声を聴くまで、S氏は職場から帰宅して、コンビニ弁当を食べた後、缶ビールといかのつまみを食べてどうでもいいような内容のテレビをだらしなくみていたが、この音を聞いてなつかしさで胸一杯になった。 たばこを吸う意外にあまりでることはなかった自宅マンションのベランダにでて、「どこにいるのだろうか」としばらく探索していた。 「いた、いた、ここだ」S氏のベランダの排水溝近くのところで一匹が大きな声で求愛している。 うまおいは。自分のDNAを子に受け継がせるため、パートーナー探しに必死なのだ。 「おいおい、こんなところで求愛行動しても無駄だぞ」S氏は呟いた。 S氏は高層マンションに居を構えていている。 最上階が54階180mと記載してあったから、S氏の自宅は30階なのでおおよそ、地上100メートルぐらいだろうか。 こいつは突風などでも煽られて上昇気流に乗り、我が家のベランダにたどり着いたのかとS氏は想像した。 捕まえて、手にとってさまざまとみてみる。子どものときとみた印象が違うなと思った。
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