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あの空間から解き放たれてようやく、頭が働くようになった。
ふと、考えてみる。
あいつらは俺がひたすらに引きこもった十年間をどんな風に過ごしたのだろう。
恋をし、
趣味に生き、
仕事に汗を流し、
誰かを愛し、
愛されて、
愛を誓い、
――人並みに。
そう、人並みに生きていたのだろうか。
きっと、人並みに生きていたのだろう。
そんなことを考えるうち、家に着いてしまった。
……いつまでも実家暮らしは、申し訳ない気もする。
……いつまで親にすがるつもりだ俺は?
もう、解放されてしまったのに。
部屋の扉を開ける。
よろよろとおぼつかない足取りで、ベッドへ向かう。
「……痛っ!?」
ガンっと鈍い音がした。
瞬間、鋭い衝撃。
テーブルの角に、小指をぶつけたらしい。
悶絶したまま、ベッドに倒れ混む。
「なんだってんだ……クソ……」
思わず呟いたその言葉と一緒に、涙が溢れてきた。
取り替えたばかりのシーツに、小さな染みを作る。
考えずにはいられなかった。
もしも、俺が普通だったら。
もしも、あいつらがもっと早く、謝ってくれていたなら。
ああ、羨ましい。
悔しい。悔しい。悔しい!
意味のないことだと分かっていても、それが結果的に自分の責任であったとしても。
関係ない。俺はただ、あいつらが羨ましい。
普通である人間が羨ましい。
幸せで溢れている人間が羨ましい。
俺だって、誰かと一緒にいたかった。
誰かを愛してみたかった。
人並みで、ごくありふれた幸福でよかったのに。
どうして、こうなった。
俺が悪かったのか。
俺が、何かしたか。
なにもしてないだろう。
なにもしてなかっただろうが!
何も悪いことをしていないのに。
どうして、どうして俺だけが……!
どうして俺だけがこんな目に合わなければいけなかったんだ……どうして……。
自分で言ったんだ。
過去を変えることは出来ない。
ようやく痛みが引いてきた。
寝返りをうって、天井を睨む。
ただ漠然と、広大な未来が俺を待つのみだった。
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