優しい百舌

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優しい百舌

 うつくしいものが壊れるところを見たいと思った。動機はそれだけだった。  だから火を点けた。炎が捩れるのが綺麗だと思った。捩れるということに何かの比喩を巡らすべきかとも思ったが、下品になりそうでやめた。観客は自分ひとりだった。  ひとは命はうつくしくただ美しい、と昔自分に諭した人がいた。その人の名前も立場も忘れてしまった。その人はうつくしかったのか思い起こそうとしたが、何も浮かばなかった。  燃え尽きてしまえば祭の終わりだった。灰は清潔で意思がなかった。意思はうつくしいか。  美咲さんがやってきて水をかけた後に散灰をして、写真を燃やすのは危ないからやめてください、と文句を言った。水をかけられた途端にそれは明らかにうつくしくないものになった。人体の六割を構成し全ての命の源になる、とその神聖さを教わったものが美を消し去る、という小さな不思議を見つけて言葉には出さずに喜んだ。……子供が自然のあれこれを不思議だ不思議だと言うと喜んだのは同じ人だったか……     
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