優しい百舌

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 美咲さんは鼻を膨らませてそうでしょう、旬ですからねと答えて、自分の腕や遠赤外線を自慢したりはしない。ああ今は秋なのかと識る、外に出ないから判らない。無論日付は知っているがそれはきちんと考えると秋なのだ。  今日は先生がおいでになる日ですよ、と云う、わかっている。旬だとかきっと心のこもったことのかわりにそういうことはわかっている。スケジュールという乾燥したものならわかる心を持っている。こころなどという、ひとが怒りそうな名をつけてもよいか。  先生の指示で肋の浮いた醜い身体を晒す。そして深呼吸をさせられるとただの空気に薬品でも混じっているような気分になる。 「先生」 「はい」 「自分の命はあとどれくらいですか」 「そんなことをおっしゃるには早すぎますよ」  何を言うものか、医者は嘘をつくのが上手い。特に死の傍にいる者に対しては眉一つ動かさない。そのための、あるいは特別な訓練過程があるのかもしれない。  息を吸って吐いて、その音で何がわかる。何かがわかるのかもしれないが、教えてはくれない。少なくとも、生きることへの渇望の量はわからないだろう。たとえ聴診器を当てる場所が頭だったとしてもそれはわからないだろう。 「少しは出かけたりはしていますか」     
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