優しい百舌

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 こんなくたびれた人物の傍に美咲さんはいて満足なのだろうか、時々は思う。思うが思いやりはないから自分に都合のいいように、なるようなままに放っておいてしまう。そういう人はある日突然運命が変わって足元が崩れ落ちたりするが、そんな破滅する日を心のどこかで待っている。人類滅亡を防ごうと掛け声をあげながら待ち望む人がたくさんいるが、掛け声はあげないぶん質は悪い。  質の悪い人間の傍にいるというのは、人が好いか趣味が悪いかのどちらかである。だが美咲さんが趣味が悪い人とは思われない。人間誰しも裏の顔がある可能性を秘めているから別に断じることはできないが、そういう雰囲気は微塵も感じられない。  ただ料理をする時の無表情に死体を切り刻む様子だけがおそろしく見えるのは、受け取る側にだけ問題がある。 「受け取られましたか」 「何をです」 「お手紙」 「ああ、まだ読んでいない」  この家の本当のあるじからの手紙はいつも開ける気はしない。自分はただ住まわして貰っている身で一円も金を稼ぐこともできはしない。美咲さんのお給金だって本当はこの男が払っている。自分には何もできない。何より心から老いさらばえ、何かできることは死ぬまでない。だから写真を燃やした。  手紙はしかし燃やしてはならない。手紙には意味が含まれている。写真にあるのは情と美だけだ。それは記憶の中で、どんどんと美しく塗り替えられ、どんなに写真を見てもそれを復習することはしない。     
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