119人が本棚に入れています
本棚に追加
「そこに何があったんですか?」
俺は、堪らずそう口に出してしまっていた。
監督は最初珍しく少しだけ迷っている
感じだったけど、お前には話しておくかと
ポソッと呟いた。
「――俺さ、高校生のころ棋院での対局や
プロとしての指導碁に飽き足らず、
家でもネットで碁を打つほど
囲碁漬けの日々を送ってたんだ。
特にネット碁は対面とは違って
相手がどんな奴か分からない、
相手も俺が“紺里夏以”とは知らない、
それが面白くてドはまりしてさ、
それこそ手当たり次第に色んな奴と打ってた」
より強い奴を求めて彷徨う囲碁ジャンキー
とでも言うべきか?と監督は笑う。
「ネット名は【invicta“A”】
インヴィクタ’エース=無敵のエース。
って意味で、如何にも
いきがってるガキらしい発想だろ。
だが正直、同じくらいの年齢の奴に
負ける気はしなかったよ」
そう語る監督の表情はまるでその高校生当時に
戻ったかのような好戦的で自信に満ち溢れていて
その威圧感にも似た様子に飲まれた俺は
知らず唾を飲み込んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!