憎しみは人を盲目にする。―オスカーワイルド

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久々の東京駅はやはり人が多かった。渋谷と違って皆が皆目的のある目をして歩いている。中央改札の近くでミクを待つ。20分も前に到着してしまったが、カフェに入るのは気が引けた。緊張をしてコーヒーを味わえる自信がない。1分ごとに、デジタルの腕時計を何度も確認する。その度にそれらしい人物がいないか、周りを見渡す。実際はどんな人物なのだろう。写真と違うのだろうか。でもあれは他撮りだったし、多少は信頼出来る。そんな事より、この格好で引かれたりしないだろうか。満男は今日のために、精一杯不快でない服装を心がけた。押し入れには使い古したジャンパーしかなかった為、この日のためにコートを新調した。近くの服飾店で5000円で購入した。満男にとっては痛い出費だったが、初期投資だと思いこみ手に取った。ダークグレーのコートは自分の体に張り付いているだけで、まだ着慣れた心地はしない。 色々考えているうちに、時刻は11時56分になっていた。満男は前に聞いておいた電話番号に電話をかけようかと思い携帯を取り出した時、向こうの方から女性がこちらの顔を伺ってきたのだ。ミクだ。満男は直ぐ様わかった。Aラインの白いコートから30代とは思えない白く細い足がのぞいていた。髪型は写真よりも少し伸びていて、横の髪は右耳にかけている。可愛らしいなと満男は素直に思った。同時に、あわよくばホテルにでもなどと考えていた自分が恥ずかしく思えた。目の前にいるのは自分が想像していた女とは違った。 「すいません。あの、満男さん……ですか?」 と、ミクは首を傾げて聞いてきた。 「あ、はい。そうです。ミクさんですよね?」 緊張のせいか口調が安定しない。それでも、ミクは安心したように笑を見せてきた。 「ごめんなさい、お待たせしちゃいましたよね?」 「いや、大丈夫。そんなに待ってないんで。寒かったですか?」 「ちょっとだけ。でも大丈夫です。着込んでるんで」 ミクの声を始めて聞いたが、とても高くて快活だった。満男はほっとして、一歩踏み出した。 「お茶でいいですか?お腹はすいてます?」 「お茶で大丈夫ですよ。お腹すいたらまたどこか行けばいいですし」 「それじゃあ、あっちに喫茶店があるからそこでいいですか?」 「はい、満男さんにお任せします」
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