憎しみは人を盲目にする。―オスカーワイルド

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ぎこちない足取りで二人は喫茶店へ向かった。ポーカーフェイスを気取っているものの、満男は内心どきどきして仕方なかった。近くも遠くもない微妙な距離感の隣の女からは、花の香りがした。香水なのか、洗剤なのか、もう何年も女性と接していない満男には分からなかったが、心地よくてずっと嗅いでいたい。 ダークグリーンに筆記体の看板がオシャレさを醸し出している喫茶店に二人で入った。何名様ですか?二人です。お煙草はお吸いになられますか?いいえ。ではこちらへどうぞ。清潔感のある店員はマニュアル通りに窓際の席へと通してくれた。 外は陽で照っていた。美しい都会の下では、汚らしい浮浪者が歩いている。満男は心の中で浮浪者に向かって言った。どうだ。俺はこんな美人と一緒にこれからコーヒーを嗜むんだぞ。俺はこの都会の中で今一番幸せな時間を過ごしているんだ。参ったか。満男の頭の中にはその時もう一人の男が思い浮かんでいた。 「ここいい店ですね。何だか落ち着きます」 浮浪者を見つめていた満男は、穏やかな声が聞こえてきて我に返った。 「ここのサイフォンで淹れるコーヒーは特にまろやかでね」 「へぇ、詳しいんですね。じゃあ私はカプチーノにします」 ミクはメニューの中の写真を指さした。爪はネイルもされていなかったが整っていた。 「オーケー。すいません、オリジナルコーヒーを一つ。豆はブラジルで。それからカプチーノを一つ」 店員はお辞儀をしてメニューを持って店の奥へ歩いていった。 「なんか、緊張しますね」 ミクは少し微笑みながら言った。 「実は俺も少し緊張してる。ああいったところ利用するのは初めてだから」 満男の言葉が意外だったのか、ミクは目を丸めた。 「そうだったんですか?」 「ああ。友人に勧められてな。最初はサクラだと疑ってたんだよ」 「でも今は疑ってないでしょう?」 「もちろん。こうして会えたんだし。というか、もうどうでも良くなった。サクラでも何でもいいかなって」 「なら、友人さんに感謝しなくちゃですね。私も」 先程の清潔感のある店員が、コーヒーを持ってきた。初めにオリジナルコーヒーを、次にカプチーノをテーブルの上に置いた。そして黙って店の奥へまた帰っていった。 「それがサイフォンっていうんですね。面白い」 「そう。ところで、何で君も友人に感謝するんだい?」 満男はさっきの話題を強引に引き戻した。
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