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その顔を見るうちに、グランソワーズはためこんでいた思いを抑えきれなくなったようだ。
「このじいさんはな。いい年して自分の孫みたいな女に、毎晩、花を置いてくんだ。それをまた、ロレーナが大切に飾って。
バカバカしいだろ? おれは皇都じゅうの人気役者なんだぞ。なんで、こんな、じいさん相手に、ヤキモチ妬かなきゃいけないんだ? もうウンザリなんだよ!」
「だからって、恋人を殺そうとするなんて、よくないんじゃないか?」
ワレスが言うと、グランソワーズは一瞬、だまる。が、ヤケになったのか、あっさり認めた。
「あのとき、明かりが消える直前、見たんだ。カーテンのすきまから、白いバラが化粧台の上に置かれるのを。
ロレーナは気づいてた。そして、化粧台に置かれる前に、バラを自分の手でつかんだ。二人が見つめあうのが見えた。二人のあいだには、たしかな愛情があった。
おれは、おしまいだと思った。何もかも終わったんだと」
ロレーナの胸にバラがあったのは、だからだったのだ。ロレーナがにぎっていたから。
ワレスは断定した。
「それはそうだろうな。二人のあいだには愛が存在する」
グランソワーズはくずれおち、こぶしで床をたたいた。わあわあ泣き声をあげる。
静かな声で、マリオが告げた。
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