Inside of screen

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Inside of screen

 ――――鎖がきしむ音が聞こえる。  身体の動きに合わせて鎖も動くが、それでも男が抜け出すことは叶わない。そうとは知りながらも、男はもがく。助けを求めて叫ぶ。 「お願いだっ。解いてくれ! 望みは何だっ!?」  じたばたともがき苦しむ様をなじるように見下ろすのは、禿げあがった頭をした初老の男。顔をしわくちゃにして老獪な笑みを浮かべ、男の要求には応えずに黙ってにんまりと口角を上げる。ヤニのこびりついた歯を覗かせながら、逆手に持ったメスを無影灯の明かりに翳した。眩い光が男の瞳に突き刺さり、眉をひそめたその瞬間に、刃は内腿の皮膚を貫いた。 「あ゛ぁああああああっ!」  激痛のあまり、男は叫び、身体じゅうを捻り、肩で息をする。まるで脱出ゲームのヒントを探すかのように、ぎょろりぎょろりと辺りを見回す。しかし、救いと呼べるようなものは何もない。あるのは、自分が治療行為とは程遠い凶行をしている狂った外科医の手術台に鎖でがんじがらめにされているという事実ぐらいだ。  瞳が絶望の色に染まり、濁っていく。太ももに生暖かい血が溢れているのを感じる。意識が遠のき、目が虚ろになった瞬間に、「まだ眠れると思うな」と言わんばかりに、外科医がメスを皮膚に刺したまま360度回転させた。 「ヴぁああああっ! はぁ、はぁ……。な、何が目的なんだっ!」 「脅迫に拷問はつきものだ。脅迫には目的がある。だから、君はその目的が果たされれば自分が解放されると考えて、しきりに私にこう尋ねる。  何が目的なんだっ?!」  男がもがき苦しみ、命乞いをする様を茶化すように裏声でまねてみせる。 「だが、もし拷問そのものが目的だったら、君の甘えた願いは無残にも砕け散るだろう」  その言葉で男は全てを悟る。  自分はただの玩具だと。外科医は、子供のような無邪気な笑顔を浮かべる。その笑顔は、純粋な悪意に満ちていた。まるで子供が、虫の四肢をもいで遊ぶような。無邪気な狂気がそこにはあった。男はそれに対する対処を知らない。純粋な悪意には、憐れみも対抗心も抱くことができず、ただただ恐怖を抱くのみだ。男の残り少ない精気は、がくがくと己の身体を無益に震わせることに注がれるのだった。
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