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「や、山下君は変だと思うよね。多分解剖実習でも皆に引かれていた気がするし……」
「別にそんなことはないですよ」
「え……」
僕としては、いつもの調子で答えたつもりだった。
事実、彼女はこの手の質問をよくレジでのからかいに対して返してくる。それだけ、彼女は自分がスプラッタ映画が好きだということに後ろめたさを感じているのだろう。
「僕、ここでアルバイトをしていていろんなジャンルの映画に触れて、それを見るいろんな人がいるということを知ったんです。まるで、違う世界の人間がすぐ近くにいるみたいで、なんというかとっても楽しいんです。藍原さんの話を聞いていると……」
そう言うと彼女はお腹を抱えて笑った。
苦しい。苦しいから止めてとすら言った。
「私を口説いてるの?」
思わずだんまりとし、唾をごくりと飲み込む。
その様子を見て、また彼女は笑う。
「もうっ、山下君純過ぎっ」
なんか小馬鹿にされたみたいだ。
たしかに女性経験が豊富なわけではない。高校のときに恋仲の一歩手前まで行った女子がいたくらいだ。口をへの字に曲げると、彼女はマスクを外し、「ごめんごめん」と漏らした。
「――――いいよ。どぎつい映画一緒に見てくれるなら」
にっこりと笑う。けれどなぜだか自嘲のようなものが混じっているように感じ取れた。
そして、彼女のこの言葉が、僕らの不思議な関係の始まりだった。
「あと、敬語じゃなくていいよ」
「あ。そっか」
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