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彼女がオメガクライシスに感染してデータ化するとあの瞳も失われるのかな……。
少し、今日の美読との会話を思い出す。
「転校生って事は引っ越して来たのだよね」
「えぇ、遠いところから」
「遠い街か……今度、引っ越しする時は私も連れていって」
「冗談でも笑えないな」
「え?田舎なの?」
「田舎というか、何も無い所だよ」
データ化された世界の個体は確かに一見生物と変わりないが生も死も有る不思議な空間である。しかし、コンピューター上の仮想空間と同じで生命は存在しないのである意味死の世界である。
私が返事に困っていると。
「元の街に彼女でもいるの?」
「いないよ」
「ホント?」
「いないさ、私はそんな平和な世界から来たのではないからね」
「ごめんなさい」
話しはここで途切れてしまった。私は逃げる様にその場を立ち去った。
その後、私は立ち入り禁止の屋上で空の青さは未来と同じなんだなと流れ行く雲と共に空を眺めていた。
屋上の柵にトンボが一匹まっていた。捕まえようするがとどかない。大した問題でないと自分に言い聞かせて。また、空を眺めていると。
「ここに居たのね」
後ろから美読に声をかけられる。うーん、当たり前か話の途中で逃げ出したのだから。
「少し心配したよ」
笑顔で私に話しかける美詠に胸が痛んだ、何だろうこの感情は?私は戸惑いを隠せないでいた。
データ化した生物は著しく異性に関心を持たなくなるのが一般的なことであり、この気持ちは何かと自分に問続けたが、きっとこれが恋愛感情と呼ばれるものなのだろう。
「綺麗な青空だね」
「うぅん」
こんな時はどんな話をしたら良いのだろう。
私は混乱する中つい出た一言が……。
『つ、月が綺麗ですね』
「え?」
流石に丁度よく月など出ているわけもなく……。
彼女を困らせてしまった。
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