煙草の山を踏み潰す

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学校からの帰り道、愛佳の彼氏と偶然出会ったのは、それから何日か後のことであった。  国道沿いの歩道を歩いていた私は、はじめ彼に全く気が付いてはいなかった。彼の風貌はよくある大学生のそれ。グレーのトレンチコートに、頭の上の黒のハット。前にあった時とは違い、今日は白縁の眼鏡をかけている。  私の目と鼻の先まで来たところで、彼はこちらを凝視すると相好を崩す。その笑みのいやらしさが、私に目の前の男が姉の彼氏であることを思い出させた。 「君、愛佳の妹だよね」  挨拶もない、いきなりの彼の言葉。 「……そうですけど」 「学校の帰り?」 「はい」  初めて言葉を交わしたとは思えない、軽々しい態度。少し話ただけでも分かる。私が最も苦手とするタイプ。軽薄で、考えなし。そして、同じような薄っぺらい物同士で群れをなし、肩を寄せ合い、その癖やたらと耳障りな奇声を高々に発する。 「では、失礼します」  そう言ってから、思わず止めてしまった足を再び動かし始める。するとあろうことか、男はくるりと体を反転させると、私と肩を並べて歩き始めた。不快。 「望実ちゃんだよね、愛佳からたまに話聞いてるよ。うちの学校の中等部に通ってるんでしょ?」  関わり合いたくないという気持ちが心の大半を占めていたけど、仕方なく首を縦に振り肯定の意をしめす。これは姉への義理立てなのだと、自分に言い聞かせるようにして。 「望実ちゃんさ、このあと暇?」  不意に、私の目の前に立ち、行く手を阻む愛佳の彼氏。 「え?」 「いや、少し望実ちゃんと話がしてみたかったんだよね。俺さ、この近くで一人暮らししてるんだけど、よかったら寄ってかない?」  下品な笑顔が印象的な男は、しかしこの時の瞳。私を真っ直ぐと見据える双眸が、どうしてか私には誠実なものだと映ってしまったのだった。
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