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今村には計画通りと言っていたが。本当は、もっと穏便に済ませるはずだったのである。
準備した人形を五体、長楽館に配置し、大蛇に捧げる。そこまではいい。問題はその後で、本来はそこから塔太郎が令状を見せて説得し、そのまま帰ってもらう計画だった。
無論、そこに戦闘となる予定は一分もなかった。
ではなぜ塔太郎が飛び出したかというと……所詮、自分も青臭い一人の男であったからにすぎない。
二十歳を越えて数年しか経っていない男が、人形とはいえ五人もの娘の色事を目の当たりにするのはやはり刺激が強かったし、何より強烈だったのが……最後の一人。かんざしを巻いた、振袖の少女の人形だった。
そのモデルが誰であるかは言うまでもなく、実際、顔立ちも似てれば声まで似ていたのである。
否が応でも大事な彼女とぴったり重なり、それまでの称賛に値するほどの忍耐も、喰われる瞬間の彼女の涙を一筋見たと同時に、我を忘れた。
男としても、精神力にしても、完全に塔太郎の負け戦である。いまだに熱を持っている頬が、何よりの証拠だった。
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