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枝垂桜でも見て帰ろうかと思っていると、数メートル先に屋台があった。
まっ黄色のビニール屋根に、「本場! うまい! 牛すじ煮込みぃ」と赤い勘亭流ででかでかと書かれおり、白シャツにタオルを巻いた色黒のおっちゃんが、菜箸で鍋の中身をつついている。
その傍らには小さなラジオがあって、よく分からない芸人のトークが垂れ流しだった。
お世辞にも、美しいとは言えぬ光景である。しかし塔太郎には惹かれるものがあり、ふらふらとおっちゃんの前に立って、
「すんません、牛すじ一つ下さい。特盛で」
と注文した。おっちゃんは威勢のいい声で、
「はいよぉー」
と語尾を伸ばしながら、牛すじをとぷんとカップに入れた。
その量は、どう見積もっても並盛しかない。しかしおっちゃんは少しの良心も咎める事なく、
「何やお兄ちゃん、一人なん!? こんなええ日に寂しいな~。女の子の一人ぐらい連れたらどやねん!」
と、さらに失礼な事まで言い出した。
しかし塔太郎は怒るどころか、そのストレートさに乗っかった。
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