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「いや、そういう気分じゃないんすよ。女の子の事は……今は、あんまり考えたくないっすね」
「何で。振られたんか」
「ま……そういう事にしといて下さい」
それをどう捉えたのか、おっちゃんは塔太郎に対して「ほうか」とだけ言い、
「まぁネギおまけしたげっし、たくさん食うて、たくさん寝たらええわな」
と、ネギを山盛り乗せ始めた。
「えっ、肉じゃないんすか?」
「そらぁ追加料金やで兄ちゃん。ワシら、これでおまんま食うてんにゃさかい」
「ほんなら肉も下さい! 払うんで」
「おっ! おおきに。ありがとう! ほんなら肉もサービスしたるわ。ビールは?」
「すんません、パスで」
「飲みぃな~」
「いやいや、仕事からの直帰なんすよ」
「あっ、ほんならやめた方がええな!」
おっさんは黒光りする肌に、がははと汚く笑いながら肉を山盛り乗せ始める。
適当で、あまりにも男臭い光景である。しかし今の塔太郎には、それが良かった。
京都の夜は百花繚乱でなお美しく、その色香は、人々を魅了し続けている。
桜の花びらがするりと数枚横切っていったが、塔太郎は、気がつかなかった。
(終わり)
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