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駅の待合室。最近造られたここは、ガラスの仕切りの中だけは空調が効いていた。真新しい椅子もある。
けれどわざわざ入ってくる人間はいなかった。電車から降りる人は足早に通り過ぎ、家路をたどるのだろう。そして、これからどこかへ向かう人なんてほとんどいない。
腰かけたまま、電車を数本見送った。ホームのアナウンスも、まばらな人の足音も、近づいては遠ざかっていくのを繰り返した。
修也は真琴の前に立ったままだ。ホームに入る電車が来るたびに、視線を投げている。それは、無理に引き留められている証で。
訊きたいことはある。混乱もしている。意味がまるで分からない。
「……俺、そろそろ行くけど?」
「ふざけんな!」
軽い。あまりにも変わらない声の調子に、一気にタガが外れた。
「どういうつもりなんだ一体!? 電話かけて繋がらないって何? 大体その恰好! 家出る時と服違うっておかしいし!」
「別におかしくないよ。着替えただけ」
「だから――」
それがおかしい、と言いたいのに、のどの奥が震えて声が出ない。
「だって言ったじゃん」
「はあ?」
「出ていくって」
「馬鹿! フツーに買い物だって――」
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