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「まあ、そー思って欲しかったし?」
「騙したのかっ」
「だって嘘つけねーだろ、真琴はさ」
「……」
「思ってること結構顔に出るし、オヤジに怒鳴られんの嫌いだから、言ったら悪いかなーと」
「問題はそこじゃないっ」
前提が、違う。もっと、もっと前にある。
睨む。怒って睨む。そうしないと、この相も変わらずいつも通りな修也に、さらりと逃げられてしまう。
「……なんで。出ていくって、どういう事……?」
「……」
説明も何も、とでも言いたそうな表情だった。まるで真琴の頭がとても悪いかのような。
心が、どんどんささくれ立っていく。
「修也っ」
「だから」
一歩詰めよれば、なだめるように肩に手が置かれた。
「俺はあの兼崎の家から出ていく。オヤジの会社は継がないし、大学にもいかない。これからは……他人? みたいに生きていくから」
「だって、どーしてっ……」
「そーしたいから、かな?」
「――」
絶句。
くるくると回るのは、視界なのか声なのか。五感の全部が、すうっと遠のいた。力が抜けて、椅子へ座りこむ。
変わらない。修也は、あまりにもいつもと変わらない。平常心で、どこか気の抜ける声だ。動揺と衝撃に狼狽えているのは真琴だけ。
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