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3 鬼子母神の女
鯖虎探偵と針筵助手は、さっそく鬼子母神に向かった。
池袋駅東口から明治通りを行き、その先が雑司が谷というところで、鯖虎は路地に入っていった。針筵もあれ?という顔で続く。ラーメン屋とクリーニング屋を通りすぎて、鯖虎が立ち止まったのは、一軒の煙草屋だった。店先の呼び鈴を押す。
りりん、と鳴って、奥から和服姿の品の良いお婆さんが顔を出した。
「あら、いらっしゃい」
「お久しぶりです、ちょっとジッポのオイルが切れてしまって」
「はいはい、コレですね」
お婆さんは、ガラスケースの中からライターオイルの小さい缶を出した。鯖虎の馴染みの煙草屋、須藤商店の富さんだ。
「陽子さん、どうですか?」
「うーん、どうもねえ、もう動けないみたい」
富さんは小さくため息をついた。
「そうですか……」
陽子さんは、富さんの飼っているアビシニアンだ。利発な細身の猫だったが、22年も生き、
ある日突然動けなくなってもう1年になる。
針筵もちょっと心配顔になって、富さんの背後を伺った。
座敷の真ん中にきれいに千代紙で飾ったダンボールの箱が据えられている。箱からは点滴のチューブや、酸素吸入用のホースが伸びていた。
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