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手は繋がりを作るものであり、もしそれを忘れてしまえば馬や牛の手綱を離すように転落してしまう。
けれど、死んでさえも馬鹿の治らない男がいた。盆になったからと馬に乗って現世に帰り、盆が終わったからと牛に乗って自らのあるべき場所へ帰ろうとした男。
だが、彼は手を離してしまった。牛の背に乗りながらも、離れていく人の明かりが恋しくて手を伸ばしてしまった。彼がかつて身を置いていた生ける者の世界が羨ましかったのだ。あの暖かそうな光の中に混ざりたかった。穏やかながらも常に寂寞の雰囲気が広がる世界じゃなく、あの光に触れていたい。
されど、死者である彼がその望みを叶えることは決してなく、たどり着くことのない光を夢見て気づかぬまま歩くだけ。
自分がその光に到達できる存在でないことに気づかぬまま、たとえ血を流そうとも歩くだけ。
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