0人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
引き取り
ええ、そうです。この女でございます。
他に身寄りもございませんから…
私が引き取りましょう。
「ですから、回向院に埋葬されたらしいです。」
長屋ヘは、遺体が戻らず。
全ての処理を、任せて欲しいと言われれば…
大家として
余計な好奇心が沸いても…
不思議ではない
しかも、遺体についてもう一人埋葬希望者が
訪ねて来たのは、好都合じゃないか
等とは顔に出さず。
長屋を訪ねて来た者を連れて、好奇心を満たす為に…いや…いや…
大家として、遺体のある場所に連れて行くという大義はある。
すると
困った顔をしてこの永楽堂が事情を話して居る。
「おやおや?なんだ紅(くれない)さんか?こんな所で知り合い逢うとは、世の中ってのは随分と狭くなった物だね~。」
歌舞伎の元悪役だったと言う人物が、顔見知りに声を架けた。
紅と、名を呼ばれ声のする方へ顔を向ける。
「どーやら、私が一番出遅れてしまったみたいですね?でも永楽堂さんが紅だったとはね?」
世の中狭いと嘆いていた隣が、人情噺で人気のぼつぼつと出始めた噺家だった。
「内緒と言う訳じゃありませんが、近頃じゃ永楽堂で通ってますからそういう事にしているんでさあ。」
キョロキョロと落ち着かない大家の隣に、関係する男達が皆知り合いなのに、顔一つ会わせたことがないという奇妙な事実が暴露された。
最初のコメントを投稿しよう!