引き取り

1/9
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ

引き取り

ええ、そうです。この女でございます。 他に身寄りもございませんから… 私が引き取りましょう。 「ですから、回向院に埋葬されたらしいです。」 長屋ヘは、遺体が戻らず。 全ての処理を、任せて欲しいと言われれば… 大家として 余計な好奇心が沸いても… 不思議ではない しかも、遺体についてもう一人埋葬希望者が 訪ねて来たのは、好都合じゃないか 等とは顔に出さず。 長屋を訪ねて来た者を連れて、好奇心を満たす為に…いや…いや… 大家として、遺体のある場所に連れて行くという大義はある。 すると 困った顔をしてこの永楽堂が事情を話して居る。 「おやおや?なんだ紅(くれない)さんか?こんな所で知り合い逢うとは、世の中ってのは随分と狭くなった物だね~。」 歌舞伎の元悪役だったと言う人物が、顔見知りに声を架けた。 紅と、名を呼ばれ声のする方へ顔を向ける。 「どーやら、私が一番出遅れてしまったみたいですね?でも永楽堂さんが紅だったとはね?」 世の中狭いと嘆いていた隣が、人情噺で人気のぼつぼつと出始めた噺家だった。 「内緒と言う訳じゃありませんが、近頃じゃ永楽堂で通ってますからそういう事にしているんでさあ。」 キョロキョロと落ち着かない大家の隣に、関係する男達が皆知り合いなのに、顔一つ会わせたことがないという奇妙な事実が暴露された。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!