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ユリだ。
あの女からの電話だったんだ。
根拠はないが、脳がそう全身に伝えている。
今日という特別の日でさえ、あの女は私からコウを奪うのか…。
もう、我慢の限界だった。
足は自然と、ある場所に向かった動く。
次第に前方には大きなマンションが見えてくる。目は吸い寄せられるかのように、2階の端の一室を見やる。
そこは日々、私が嫌がらせを行っている一室。世界で一番嫌いな女がいる一室。
そうユリの部屋だ。
私はチャイムもなしに部屋へと入った。
中に入ったのは初めてだ。ごちゃごちゃとしている実に汚い部屋だ。
ユリは私に気づかずに、背中を向けた無防備な状態だった。
思わず口元が綻ぶ。
* * *
電話が鳴った。
『もしもし、ユリ先生!予約していたケーキ取ってきたよ』
電話口から、活気のある女性の声が聞こえて来た。
『これからそっちに行くけど、肝心のナツカ先生の姿が見当たらなくてさ~』
電話口から、私の名前を口にするコウの声が聞こえる。
『あれ?ユリ先生?もしかして電波悪いかな。もしも~し、聞こえてますか?』
私はコウの呼びかけに応えた。
「聞こえてるよ、コウ。私はここだよ」
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