【6】

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月曜、僕は学校を休みたかった。土日の夜は怖くて、眠れなかった。瓶を隠したときは、どうにも思わなかったけど、けんちゃんにバレたらどうしようと思った。先生に言われたら、怒られるだろう。みんなもブラックホールがなくなったことに気づくだろう。僕がやったとバレたら? 馬鹿なことをしたと反省した。でもけんちゃんに謝るのも嫌だった。近所の川は水が減っていた。晴れた日はいつも水が少ないけど、ブラックホールに吸い込まれた気がして嫌だった。魚も見当たらなかった。 いつもより遅く学校について、教室に入る。一応、いつも通り「おはよう」は言った。声が震えてたかもしれない。 「おはよ」 ようすけが走ってきた。頬の傷は少しよくなっている。みんなが僕のところに集まってきた。不思議な気持ちで、けんちゃんの方を見た。けんちゃんは1学期と同じように本を読んでいた。今まで通り。背表紙が破けた学級文庫を読んでいる。机の上に瓶はない。 「なあ、昨日のテレビ観た?」 はじめくんが肩を叩いてきた。僕は昨日、テレビどころじゃなくて観てなかったから、わからなかったけど、みんなの話は楽しかった。話は楽しかった。でも心から楽しめない。ようすけはいつも通り歯抜けで笑ってるし、はじめくんはいつも通りイケメンで、教室はいつも通りみんなの匂いがする。けんちゃんの方をまた見た。けんちゃんは本から目をあげる気配がない。いつも通りだし、いつも通りじゃない気もした。僕はいつも通りなんだろうか。いつも通りがわからない。ブラックホールは僕のいつも通りを吸い込んで消えてしまった。 (おしまい)
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