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体操着入れの紐は重力に引っ張られて、下にピンと張っていた。でこぼこした布でできた袋はお腹が膨らんでいた。ゆっくり机横のフックから外して、巾着の口を開く。恐る恐る、中に手を突っ込むと、冷たくて硬いものに手が触れた。瓶だった。ブラックホールが入った瓶。どこにでもある瓶なのに、みんなが神様みたいに拝んでる瓶。近くで見るのは初めてだった。中を覗いてみた。やっぱりなにも入っていない。ガラスの向こうが歪んで見える。教室の後ろに貼ってあった習字の文字が揺れてた。たくさんの「希望」という文字が、ラーメンの湯気みたいに歪んだり、伸びたりした。 中には、ほんとうに何も入ってないのだろうか。僕はじっと瓶を見つめた。ブラックホールを僕は見たことがない。誰も見たことがないってお父さんは言ってた。もしブラックホールが透明なのなら、この瓶に入っているかもしれないと思ったけど、それは馬鹿な考えだと思った。でも瓶は、持ってみるとうちにあるジャム瓶より重い気もした。冷たさで指が痺れる。瓶を落としそうになって我に返った。早くしないとチャイムが鳴る。僕は朝から考えてた通り、瓶をある場所に隠した。鍵をかけて、体育館へ急ぐ。
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