【5】

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下校の時間、雨は降っていなかった。でも空はまだ重い灰色をしていて、今にも落ちてきそうだった。僕はいつもより重い給食袋を抱えて帰った。金曜日、給食係はその週使った給食エプロンと帽子を持って帰って洗濯し、翌週また学校に持っていかなきゃならない。僕はカレーが裾についた給食エプロンを入れた袋の中に、瓶を隠して持って帰った。 家に近づくにつれ、瓶が重くなってきた気がする。それにつれて足も重くなる。家の近所の川は水かさが増している。コーヒーみたいに濁った水がすごいスピードで流れていった。魚は見えなかった。いつもは風に揺れてる雑草も水に浸かって見えない。家にブラックホールを持ち帰るわけにも行けないから、この川に捨ててしまおうと思った。こんなに暗くて流れが速ければ、ブラックホールが本物でも、どっかに消えて無くなってしまうはずだ。 僕は給食袋の口を開けると瓶を取り出した。瓶越しに川を見ると、うねる水の流れと瓶の歪みがかけ合わさって、目が回りそうになる。僕は瓶の蓋に巻いてあるテープを剥がし始めた。僕は確かめたかった。ブラックホールなんてないこと。クラスのみんなが馬鹿なこと。けんちゃんはくだらないということ。何重にも巻かれたテープは長くて、いつまでも剥がれない気がした。ようやく剥がしたテープは丸めて、川に投げた。蓋を思いっきりひねる。思ったよりすんなりと開いて驚いた。開けるのが怖い気もしたけど、僕は馬鹿じゃないと思って、蓋を開けた。
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