【5】

2/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
何も起きなかった。中を覗いて見たけど、ちょっと酸っぱい匂いがしただけで、普通の瓶だった。 「やっぱり何もないじゃん。馬鹿じゃん」 僕は蓋を川に投げて、瓶も投げようと振りかぶる。瓶の空洞に空気が流れ込んで、フクロウの鳴き声みたいな音がした。瓶が指先を離れて、水面へ飛んでいく。瓶が水面を叩いた。 水面までは遠かったけど、僕にはその様子が顕微鏡で見ているかのように、しっかり見えた。瓶が沈む。瓶の口に濁った水が流れ込む。一瞬だった。水に満たされた瓶は、川底に吸い込まれていって見えなくなった。ブラックホールなんてないと信じているけど、僕は怖くなった。ただ水が瓶の中へ流れ込んだだけ。そう分かっているつもりだったけど、瓶に吸い込まれる川の水に、僕はブラックホールを見た。確かにあの瓶の中にはブラックホールが入っていて、川の水を吸い込み、海の水を吸い込み、学校や家や、お父さん、お母さんや、はじめくんやようすけ、そして僕を吸い込んでしまう気がした。早くこの場所から逃げなきゃと思って、走って帰った。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!