【1】

2/3
前へ
/13ページ
次へ
けんちゃんがブラックホールを持って来てから、クラスの中心はけんちゃんになった。 それまでは僕がクラスの1番だった。僕はサッカー部のフォワードで、足が速い。勉強も普通よりできる。部活が忙しくて勉強してないだけで、僕は頭がいい。3組のみきちゃんは僕のこと好きだし、先生は僕を学校の体育委員長に選んだ。1学期末の通信簿には「人望がある」って書いてあった。 けんちゃんは確かに頭がいい。勉強もできるし、なんでも知ってる。だけどそれだけだ。学級文庫は全部読んだらしいけど、僕は他のことに興味があるだけで、やろうと思えば誰でもできる。6月に隣の席だったけど、あんまり話さなかった。だからけんちゃんのことはあんまり知らないし、仲もよくない。メガネはかけてないけど、ガリ勉って感じで少し太ってる。デブじゃないけど。たまに笑ってるところを見るし、暗いやつではないけど、僕は好きじゃない。 まだ暑い9月の始め。夏休み明け。始業式。僕は1学期よりも肌が焼けて黒かった。サッカーの遠征に長野まで行ったし、佐々木くんたちと海にも行った。忙しかったけど、宿題も絵日記も自由研究も全部やった。我ながらすごいと思う。お父さんはいつも「忙しい」と言って、仕事が休みの日は大抵寝ている。でも僕は学校も部活も遊びもしてる。お父さんより僕の方が少し偉いかもしれない。 夏休みの自由研究は1日で仕上げた。叔父さんと捕まえたカブトムシに、1円玉を46枚引っ張らせた。床がフローリングで滑ったけど、畳だったらもっと引っ張れたと思う。広用紙にもそう書いた。カブトムシと1円玉の図も書いた。1円玉は1gってことも分かった。お母さんがお菓子を作るときに使う、スケールで測ってみたから。よくできたと思う。新学期は楽しみだった。通学路の途中にある小川はいつもより水が少なかった。けど太陽が反射して綺麗だった。僕が覗き込むと、黒い魚が何匹か草陰に逃げていった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加