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朝、僕が教室に入ると、1学期とは違う匂いがした。木とカビの匂い。夏休みの間、人がいなかったから、みんなの匂いが教室から逃げたみたい。もう10人くらい友達が来ていた。いつもなら僕のところに人が集まるはずなのに、誰かの机の周りに団子になっている。その団子の真ん中にけんちゃんがいた。あんまり乗り気じゃなかったけど、その団子に割って入った。けんちゃんが椅子に座っていた。割り込むのに背中のランドセルと肩から下げた鍵盤ハーモニカが邪魔だった。 「おはよう」 一応言った。けんちゃんに、というより、周りの友達に。 「なあ、これブラックホールだってよ。すげえよな」 僕の挨拶は無視する形で、ようすけが言った。ようすけは坊主であんまり頭が良くない。頬に1学期はなかった傷ができている。また走って転んだらしい。 「ブラックホール?」 僕がきょとんとしていると、はじめくんが「これだよ」と言いながら、机の上に置いてあった瓶に手を伸ばした。するとそれまで仏像みたいに黙って笑っていたけんちゃんが、怖い目をしてそれを止めた。 「ダメだよ。はじめくん。危ないから」 学芸会で神崎さんがやったお姫さま役みたいに大袈裟だと僕は思った。だけど不思議なことに、みんなはそれを聴いて納得したようで、黙ってけんちゃんを見つめている。
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