【2】

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【2】

机の上にあるのはどう見ても、ただのジャム瓶だった。うちにも同じような瓶がある。毎朝食パンにつける、いちごジャムの広口瓶。違うのは中身が空なこと。ラベルがないこと。そして蓋にテープが巻いてあること。金属製の蓋が開かないように、ぐるりにテープが何重にも巻いてあった。黄色いテープに黒文字で英語が書いてあった。なんて読むのかはわからない。多分、周りを取り囲んでる他の友達もわからないはず。でもけんちゃんは分かっているみたいだ。それが分かってちょっとムカついた。 「ねえ、さあ、ブラックホールってなんなん?」 ようすけが楽しそうに言った。体育で使うゴムまりみたいに跳ねてる。さっき「すげえ」と言ってたくせに知らなかったらしい。とは言え僕もよくわからない。知ってるのは、宇宙にあってなんでも吸い込むやつ、くらい。 「ブラックホールは宇宙にあって、星も光も全部、吸い込むものなんだ」 けんちゃんは怖い話をするみたいに、静かにゆっくり言った。僕と大して変わらないくらいのことしか知らないくせに、さもすごいことのように言った。僕は馬鹿馬鹿しくなった。でも周りのみんなはそうじゃなかった。怒った立花先生の話を聞くときよりも真剣な顔して聴いている。 「それっておかしくない?」 僕はみんなの感じが嫌になって、言った。みんなの顔が一斉にこっちを向く。教室に入ってきた女子たちが見慣れない状況に戸惑っていた。 「なんで? 説明してくれる?」 けんちゃんが言った。口は笑ってたけど、目は笑ってなかったと思う。僕はおかしいとは思ったけど、何がおかしいかはうまく説明できなかった。ブラックホールが瓶の中にあるっておかしいじゃないか。でも、それをみんなに納得させる言葉が出てこない。僕は顔が熱くなった。自滅だ。なぜだかけんちゃんに負けた気がした。けんちゃんの顔は見れなかったから、どんな顔をしていたかはわからない。ただただ悔しかった。ちょっと泣きそうになった。
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