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「あのさあ」 牛乳が入ったケースを運びながら、けんちゃんに言った。牛乳は重いからゆっくり運んでて、廊下には、けんちゃんと僕しかいなかった。 「やっぱ、瓶の中にブラックホールは入らないよ」 昨日、お父さんが言ったことをそのままけんちゃんに言った。多分、ちゃんと説明できたと思う。けんちゃんは顔を前に向けたまま、横歩きしていた。黄緑色のエプロンがずっと揺れてる。僕の方を見ようともしない。マスクをつけてたから、表情もわからなかった。 「当たり前じゃんか」 けんちゃんが言った。マスクで声がこもってた。動物の鳴き声みたいに意味のない、ただの音に聞こえた。僕はちょっとムカついた。廊下が長い。 「じゃあなんで瓶持ってくるの」 「ユーモアじゃんか。フィクションだよ」 「別に、全然、面白くないと思う」 僕はちょっと歩くのを速くした。けんちゃんはそのままのペース。牛乳瓶が入ったケースが2人に引っ張られてちょっと上に上がった。腕がきつかったけど、けんちゃんとケースを引っ張って教室に戻った。牛乳瓶を配膳してたら、けんちゃんの机に瓶が乗ってた。同じ班の真木さんがじっと瓶を見つめてた。中に蝶々でも入ってるみたいに、目をぎょろぎょろ動かして見てた。当たったふりをして割ってやろうかと思ったけど、大人気ないと思ってやめた。あと先生に怒られそうだし。
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