完璧

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 幽霊画の美人さん、なんとも乱暴な表現である。  到底のみこめないまま、話は続いた。 「行き先を訊ねると、そこから車で20分ほど離れているレストランの名前を言いました」 「レストランからレストランですか」 「そうです。どこか落ち着かない様子を見て、いつものように場所を勘違いしたのかな、と思い、『もしかして店を間違えられました?』と話しかけました」  俺は窓の景色を時々見ながら運転手の話を聞いていた。幽霊のような女性は、きっと線が細くて色も白いのだろうか。 「お客様は、誰かに話しをしたかったのでしょう。隻をきったように話し始めました」  運転手もその時の事を思いだしたのか、話に熱が入ってきた。女性は完全に目の前に再現された。 「信じてくれなくてもいいです。ただ誰かに聞いて欲しくて。実は、私は同じ日をくり返し、くり返し、生きています。朝目覚めると、いつも9月2日なのです。でも実は、それを願ったのは自分でした。生まれて初めて完璧な一日を過ごしたのです。美しい一日でした。だから、この一日が終わらなければいいと願いました。そして、本当にその願いは叶い、朝目覚めると、同じ一日が始まってしまうのです。その一日をもう何百回と生きています」     
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