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一難去ってまた一難とは正に此の事だろう。
すっかり上がりきってしまった息を整えながら、そう思わずにはいられない。まさか魔獣を撒いたと思ったら、逃げ惑う間に裏通りに迷い込んでしまうなんて。
今迄順風満帆の歩みをみせていた。順当に経験を積んで、順当にレベルアップ。
そろそろ何時もの完全初級者向けダンジョンでは、一撃で仕留められる……所謂ワンパン状態。そうなっては熟練度や経験値にもならない。また何度も繰り返し潜ったダンジョンである為、其処から入手出来るアイテムや採掘物等々は、あらかた手に入れていた。
そうなると次のダンジョンに挑戦してみよう、という話になるのは自然の成り行き。ギルドも問題ないと太鼓判を押してくれた事もあって、勇んで向かったのは手馴れてきた初級者から、中級者なりたての者ご用達のダンジョン。
……勇んで向かうワリには程度が知れている、というのは触れてはいけない。そもそもこうした物は存外手順が必要で、余程の例外でもない限り初級者向けをクリアしたから中級者向けに言って良いだろう、という事ではないのだ。
ギルドも1歩1歩確実なステップアップを推奨している。1足跳びに挑む事は禁止こそされていないものの、ダンジョンレベルが2段階違えば其処にいる魔物は最早桁違いだ。2段階、なんて話ではない。
だから無駄死に、或いは無用な大怪我は御免とばかりに余程の例外でもない限り、皆、1歩1歩上級者の道を歩んでいく。
そうしていた、筈なのに。
悲劇と言うか、災難と言うか。想像もしていなかった事態は、突然起きる。
まさか件のダンジョンに向かう途中。普段はスライムさえ出ない様な、殆ど舗装された森林街に、上級ダンジョン以上にのみ出現する吸血竜が現れると、誰が考えよう。
今からダンジョンに向かう身だったので其れなりに道具や呪文の準備は万端だったが、それはあくまで“手馴れてきた初心者からなりたての中級者”向けのダンジョンに備えた万全の準備である。上級者でさえ倒すのに苦戦する吸血竜を相手取る事なんて考えていない。
第一装備が万全でも其れを使いこなすだけのレベルもない。
そうなってしまえば出来る事は1つ。ただただ闇雲に、只管に、逃げる事だけだった。
そして、全力疾走した結果、冒頭に至る。
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