勇者は人を助けます?

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 従う理由なんてない。魔力にせよ無理矢理回復させられたもので、どうせ回復魔法も使えなければ、死んでしまった相手に無意味である以上、何の足しにもならない。そもそも回復に優れた仲間は、其れを見越してなのか他でもないリシファが早々に殺してしまっている。  無論、無視しても咎められはしない筈だ。  しかし無視を続ければ、リシファは少年を殺さないだろう。酷い異臭を感じているのはリシファも同じだろうに、少年が鑑定魔法を掛ける迄平然と、にこにこと微笑んでさえ、少年を此の場に生かし続けるのだ。其れは想像するだけで恐ろしい苦痛に思えた。  戦えるだけの力はない。逆らう為の手段はない。其れなら早く解放を望んでしまっても良いだろう。 「あ、れ……?」 「どう?気に入ってくれた?此れがオレを少しでも楽しませてくれたアンタへの礼代わり、冥土の土産っす。明かすの、初めてなんすよ」  無論此の場に於いて態々鑑定魔法を促すからに、最初に覗った鑑定結果と差異は出ると思っていた。  少年のレベルではギルドに提出された程度のステータスしか覗けない為、其れを隠匿する必要はない。しかし隠匿する必要がないだけで、出来ないワケではない。  詐術を施し、欺く事だって、同様に。 「じゃあ、さよなら。其れなりに優秀だった初心者参謀サン」  鑑定結果は少年に見る事が出来る限りの範囲で、1つだけ、最初に覗いた物と変わっていた。  名前でも無ければ、悔しい事に勇者という身分でもない。此れでまだ、殺人者なんて文字が躍っていれば、少しは気分も安らいだだろうに。  違えていたのはランク。Aであれば十分羨望を受け、高い目標に設置されるランクであるというのに。其処にプラスを授かった男は。勇者の多くが憧憬を向ける立場でありながら、惨殺を繰り返していた男のランクは、A+等比ではない。  S+ランク  勇者  リシファ  最早神の域にも等しいと言われる、存在さえしないとされている、幻の上位ランクと呼ばれる物。  そんな到達不可能な域に達した者がこんな惨劇を繰り返しているのかという、落胆。或いは神にも等しいと言われるランクに手が届けば、人として何か狂ってしまうのだろうかという諦観。  だからと言って勿論、己が仲間を惨殺された事に対して許したいとは思えぬのだけれど。  ともあれ彼がそうした感慨を抱いていたのも一瞬で、少年の思考は直ぐに途切れた。
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