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「……それにしても」
暫く眺めていた愛剣を、剣のサイズにしては大きめの鞘に納め、リシファは溜息を漏らした。転々と転がる屍骸を順に睥睨していき、最後に足元で横たわる死体を見下ろす。
楽しめたと言った事に嘘は無い。今迄リシファが行った虐殺の中、拙くも、震えながらも、リシファに反抗の意志を示した者は此の少年のみ。後は我を、理性を全て失っていて、話にもならなかった。リシファにとって重要視すべきは結果である為、経過は如何でも良いのだが。
新鮮な反応。アクションの起こし甲斐ある態度。楽しめたのは事実であり、だからこそ惨殺対象に過ぎない“誰か”と会話を試みようと思って、少年の質問にも逐一答えたし、本当の身分さえ明かしたのであるが。
「流石に喋り過ぎたっすねぇ……」
1つ後悔している事もある。
勇者の在り方について、2言3言ではあるも、此の少年と交わしてしまった点だ。其の所為で思い出されてしまう。否、其の記憶はリシファの頭に、心に、耳に、目に、手足にさえもこびり付いて離れない為、思い出すというのは適切ではないか。
事実今日に至る迄、惨殺に及んでいる最中は当然、或いは眠っている時でさえも忘れた事が無いのだ。
そうは言っても、いざ実際口に出してみるというのは、常に鬱屈と抱えているのと異なる物がある。堪えようとしても怒りは堪えきれず、声音にも憎悪は滲んでしまうらしい。少年に指摘こそされなかったが、あの中々に優秀な初心者参謀は恐らく悟っていただろうし、リシファも自覚があった。
少年がリシファに反抗を試みていた事は分かったが、あの台詞は流石にリシファの動揺を狙ってのものでもあるまいに。
勇者は人を救う者。
新米勇者であれば何度も繰り返し教えられるし、中堅勇者であっても其の基本姿勢は常に持っているだろう。其れが外れてしまうのは、一体どれ程のランクになってからか。
Bとなれば十分であるとされているから、境目は其の辺りであるかもしれない。人を救う筈だった勇者の中で、何かが外れてしまう境目、という物は。
無論、其の道を外れない優秀な高ランク者も居る。反対にリシファの様に、勇者になれた事さえ疑ってしまう様な、初心者の時分からそんな崇高な考え等見向きもしなかった者も。
しかし何方も、特に前者については至極少数である。リシファは既に物言わぬ骸となっている少年を見下ろしたまま呟く。
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