勇者は人を殺します

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「アンタの結果は、オレに出遭ってなくても変わらなかったと思うっすよ。寧ろ勇者として、勇者の在り方に疑問も不審も抱かぬまま死ぬ事が出来たのは、幸福でさえあるのかも……。……なんて止め止め。オレは人助けなんて、したくないんすよ」  多少激しく首を左右に振る事で、思わず脳内に描いてしまっていた眼下の元少年(死体)に存在した未来の行く末を振り払う。  あまりに今回の惨殺が、此の少年のお陰で楽しかったからと、多少感傷的になっているのかもしれない。或いは此の少年が、将来優秀な“参謀”になるであろう、初心者参謀である所為か。  要因は何にせよ、此れ以上少年を見つめていれば余計にらしくない感傷、望まざる人助けをしかねない。リシファは視線を他の屍骸へと移した。  其れだけで不思議と胸中には興奮と、充足感だけが満ち満ちる。愛剣の柄へ手を触れた。慣れ親しんだ感触を愛剣は訴える。  口端が無意識の内に持ち上がり、沸き起こる笑いを抑えるだけの自制は出来ず、リシファの笑い声が、何処か箍が外れ狂った様にも聞こえかねない哄笑が、裏通りに響く。  幸いな事に、表通りの人間は裏通り近辺に近付かず、裏通りの人間は必要が無い限り表通りにより近い此処へ迄出向かない為、誰の耳に入る事もなかった。  そう。  表通りに住む誰かや、裏通りに住む誰かにとって、酷く幸いな事に。
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