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リシファの愛剣は俗に魔剣に分類される物だ。しかし世間では誰にも認識されていない、存在さえ誰も知らない剣。
傍目にはただの剣であり、魔剣特有の魔力も一切感じられず、邪悪さも同様に皆無。しかし魔剣や聖剣と呼ばれる物にとって有りがちである様に使用者を選ぶ性質は健在であるらしく、リシファ以外が扱えば扱い手は容赦無く、躊躇無く、情け無く死ぬ。
1度其の様を見た時は酷く興奮さえ抱いた物だが、最大の目的達成の為の糧としてはあまり効果が望めなかった為に、殺害法としては除外されている。片手が泡をあげて溶け出し、剣を握っていた手は吹き飛んで血飛沫があがる。其れでも何故か剣は手を離れず、柄の部分が断面の肉に付着して……といった様は見物している分に酷く悦楽的であったし、刀身は普段のパーティ壊滅に因って付着する血液肉片等比で無い程どす黒く染め上げられていた為、多大な期待があったのだが。
「もっともっと殺さなきゃ駄目っすね」
幸い、人殺しへの抵抗は一切無い。其れは目的の為に如何こうではなく、持って生まれた、或いは持たずに生まれた結果である。
其れ故此の魔剣はリシファにとって相性抜群ではある。吸った血の数、肉片の数だけ。正確に言うのであれば、“救った数を凌駕するだけの人数”の血肉を捧げれば、死者の復活さえ果たすという魔剣は。
此の魔剣の力故に、惨殺した人数に応じレイティシアに穿たれた穴は縮小していく。此れでも当初より大分小さくなった方なのだ。当初は胸から下腹部迄を穴が占めていた。其の為にどれ程惨殺したかは、一々数えていない為覚えてはいない。
「其れとやっぱ同情は厳禁、すかね?ああ思った瞬間、惨殺じゃなくて人助けと見做される、と。当人の問題っつーよりオレの心情と剣の判断すか?まあ、人助けした分穴が広がらなかったのは良かったっすけど」
何分長い間やってきた事であっても初めての経験なのだ。此ればかりはよくよく思考して判断せねば、後々自身で自身の首を絞める様な羽目にもなりかねない。
今迄リシファは多くの人間を手に掛けてきた。其れは只の殺戮であり、人助けであるなんて思った事は1度たりともない。そんなのは欺瞞であるし、自身の純粋且つ単純な快楽である惨殺に不純物が欠片でも混入する事は許し難い。尤も現状については己が嗜好の為と言うより、レイティシアの穴を塞ぐ為の殺戮劇ではあるが。
其の事ではない。
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