少年は人を殺します

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 入ったら最後、2度と出られぬ村がある。呪われた村がある。実は既に住人が人喰いの魔獣に取って代わられているのだ。等々。  正に列挙に暇が無いと言わんばかりの勢いでリシファの所為で生じた噂はわんさか出てくる。尤もリシファとて外部からの訪問者全員を殺しているワケではない。訪問者自体も少ないが多分5人に1人位だ。其れ位は殺さずに帰している。  全員を殺しているワケでは無いからか、噂は所詮噂であるからか。村の名前が特定されるには至らなかった。事実勇者なんて何時死ぬか分からぬ身分であるし、旅にも危険が付き物であるから戻ってこなかったというのは、存外大した噂に成らなかったりもするのである。  かと言って此の儘リシファが訪問者5人に対し、4人を殺し続けるのも得策ではないと考えたのだろう。またリシファが成長するにつれ殺意の度合いも成長する危険性を唱えた者もいた。残念な事にリシファは其れを有り得ないと断定出来ない。  何せ人間を剣の錆に変え、地面の染みに変え、動植物の養分に変えていくのはとてつもなく楽しかったから。  村人は対策を練ろうとしていた。それと無く勇者ギルドに申請をしたのか、そんな村人達の口外出来ぬ悩みを悟ったか。  ……今になって思うと、あのランクで、且つ様々な能力に秀でていたレイティアであれば、村人の悩み等、遠方に居ても感じ取れてしまったのではなかろうか。  レイティシアの力と、リシファが其れ程迄村人達を悩ませていた事を思えば、其れ位は起きてしかるべき事態であった様にも思う。  ともあれ、当時のリシファには当然ながらそんな事は分からない。  別段勇者も志してはおらず、有能な勇者の存在だって知らないし、興味も無かった。  其れでも村を訪れてきたレイティシアに初めて会った時、確かにリシファは驚愕した。まだ10か11かといった程度だったが、あの時はその10年少しで最も驚愕しただろう。  其の時リシファは、中々客人が訪れず、肉を裂く感覚にも飢えていて。丁度ガキ大将を気取っている小生意気な少年が、何かチョッカイを掛けてきたのである。今となっては覚えていないから、些細な言葉だろう。当時だって其れ程苛立ったワケではない。  ただ此れを好機(口実)に久方振りの惨殺が行えると嬉々として少年を組み伏せ、馬乗りになると懐に忍ばせていた小刀を常人の目には留まらぬ早さで、勢い良く口内に押し込もうとして。
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