少年は人を殺します

4/7
前へ
/108ページ
次へ
 しかし其れが果たされる事は無かった。手から小刀の感触が消え、振り上げた腕の自由も効かない。其れを認識するより先、殆ど反射的にリシファは背後へ顔を向けた。  遅れて、違和感を抱く。  人の気配などしなかった。加えてリシファの殺戮は常に残虐にして最速。目にも留まらぬ早さで行う惨殺を、今迄誰かに止められた事はおろか、殺害の瞬間を視認された事さえ無かったというのに。  確かに今、手の中から小刀は消えていたし、腕は捕られている。  組み敷いた少年にそんな芸当をしてのける事は不可能だ。普段ガキ大将の様に振舞っている此の少年は、ただ腕力が他より少し秀でているだけで体術や剣術の心得もなければ、魔法に関してはまるで御粗末。  諸間接を抑えて組み敷いている現状、彼に抵抗の術は無い。  そうなれば気配を感じずとも、9割方阻むのが不可能であろうとも、第3者の介入他、現状は成し得ないだろう。果たしてどれ程の人間が其処に居るのか。  別段体格差はものともしないだけの自負があるが、リシファの動きを初めて止めた程の人間である。小細工が通ずるとは思えないが、其れでも。  反射的に振り返り、視界が捉えた者を脳が認識する迄の数瞬。  リシファの脳内は其れだけの情報を処理し、しかし眼球から伝達された情報に関しては、理解に至らなかった。  まるで先の働きが嘘であるかの如く。或いは先の働きで負荷が多大に掛かり、ショートでもしてしまったのか。  否、そもそも此の状況を理解しろと言う方が難しいだろう。リシファでなくとも、リシファが今迄引き起こしてきた惨劇の数々を知る村の人間であれば、此の光景に唖然として、口を半開きにした間抜けな姿を晒し、言葉を無くし暫く立ち尽くしているだろうから。 「まったく。ソイツも大分口は悪かったが、幾ら何でも手が早過ぎねぇか?」  左手でリシファの腕を抑え、右手はリシファから取り上げた小刀をくるくると危なげない手付きで弄っている。  思わず顔を逸らし、眼下に目線を、まだ組み敷いたまま、先程惨殺しようとしていた少年を見つめる。  自分がチョッカイ出したのは、惨殺を好んで繰り返すリシファであると理解しながらも死の恐怖に引き攣った顔は、しかし別の色を確かに宿していた。助かったのだという安堵よりも色濃く。  驚愕。 「……ねぇ、オレはアンタを殺すの、後ろのに阻まれたんすか?」
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加