少年は人を殺します

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 さも間抜けな話であるが、先程迄惨殺してやろうと思っていた、否、惨殺する筈だった人間にリシファは問い掛ける。  惨殺されそうだった側の少年も、信じられないと言わんばかりにこくこく頷いては、リシファの背後で彼の腕を捕り、小刀を弄ぶ人物、少年にとっては命の恩人でもあろう人物を、信じられない者を見たとでも言わんばかりに見つめている。  未だ抑えた間接を緩めてはいない為どの道不可能ではあるのだが、此れを好機に逃げ出してしまおうという様子は微塵も見せない。ただただ呆然と恩人の姿を見つめるばかり。  1度深呼吸をする。  物心付いた頃から惨殺死体を積み上げて生きてきたと言えるリシファであるが、此れ程緊張したのは初めてである。呼吸が、僅かに、其れでいて確かに乱れていた。興奮ではない。緊張や、或いは未知への恐怖で。  深呼吸によって其処迄落ち着きを取り戻せたワケではないが、此の儘膠着を続けていても意味がない。意を決してリシファは再び背後へと振り返った。  変わらずリシファの右腕を左手1本で捕らえ、空いた右手は器用に小刀を弄んでいる。  リシファが驚愕、少年が恐怖に因る見間違いをしたワケでもなさそうだ。  リシファ自身厳つい体格をしているワケではないが、そんなリシファと比べても細い体付き。よくよく見れば腕を捕らえ、小刀を弄ぶ指も細い。  肌は色白で、日の下で走りまわる姿はまるで想像出来ない。絵に描いた様なインドア派。艶のある黒髪がとてもよく映えていた。  年の頃は同世代だろう、精々1つ2つ上かと思われる。まだまだ子供。  そんな見た目の少年が、今迄大の大人、其れも力自慢で屈強な男であってさえ止める事が叶わなかったリシファの惨殺を、易々と止めてみせたのだ。  右手で小刀を弄ぶ余裕、一切息を切らした様子や、表情に焦燥、安堵の類がない事からも分かる。嫌でも分かってしまう。  此の少年はリシファの事を、苦戦する事なく、本当に易々と止めてしまったのだ、と。 「……あー、オレの顔に何か付いてるか?其れともコイツ、お前の仇か何かだった?」  あまりにリシファが凝視していた所為だろう、少年が多少弱った様に問い掛ける。其れでも右腕が動かせそうにないあたり、こうした状況にも慣れているのだろうか。  隙と言える程の隙ではないもののもしかしたら、と思いつつ振り払おうとしてみたものの、無意味に終わった。
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