少年は人を殺します

6/7
前へ
/108ページ
次へ
 取り敢えずの抵抗を止め、諦めて溜息を吐く。  無論現状携帯している凶器は小刀だけではないし、何なら其処等に転がる小石でもリシファの好ましい様な惨殺は行える。利き手利き腕という概念は殆ど薄い為、片腕が封じられているのも然程マイナス要素には成り得ない。  しかし興は削がれていた。最早組み敷いた少年に興味は無い。  また、リシファは勇者でもなければ体術剣術の道を極めたいワケでも無い。従って強い人間と戦いたい、リシファに合わせた言い方を選ぶのであれば、より強い人間を惨殺したいといった、随分歪んでこそいるが一種の向上心めいた物も持ってはいなかった。  闖入者の質問に答える様、素っ気無く首を左右に振る。 「別にコイツはオレの仇でも何でもないっす。オレの両親はまだまだ健在。とは言え、別段愛も憎しみも持ち合わせてないっすけど。アンタの顔にも何も付いてない。強いて言えば、ちょっとオレの眼球に興味が貼り付いたってトコすかね?」 「仇でも何でもねぇなら、そろそろ解放してやったらどうだ?」 「じゃあアンタも腕、放してくんねぇ?」  リシファに最早殺害の意思はないと判断したか、小刀を奪っている以上不可能だと思ったか。はたまたリシファなど2度も3度も容易に阻めるという自負があるのか。  あっさりと闖入者は手を放した。  あれ程しっかりと捕らえられていたにも関わらず、痛みや痺れは微塵も残らない。リシファは何と無く溜息を吐き出すと、わざとらしく、よいしょ、と声に出しながら馬乗りになっていた少年の上から立ち上がる。  尤も恐怖の所為か、驚愕の所為か、少年は直ぐに歩く事はおろか、直ぐに起き上がる事さえ叶わず、目を見開き、口をぽかんと開けた間抜け面でリシファ達を、主に闖入者の方を見つめていたが。 「大丈夫か?あまり精神的混乱は見られねぇけど、回復魔法が必要なら掛けておくぜ?」  闖入者はおそらく完全な好意から申し出ているのだろうが。  もう1度リシファは溜息を漏らす。今度は先程よりも大きく、周囲の、主に闖入者の視線を向けさせるという明確な目的を持って。  果たして、其れは功を奏した。リシファのわざとらしい程の溜息に、闖入者は不思議そうに目線を向ける。小さな頭を僅かに横へ倒す様は、如何にも疑問だらけの心情の表れである。  と言うかそんな無邪気な仕草も似合う相手に、リシファはああも軽々抑えられたのか。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加