少年は人を殺します

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「多分コイツ、恐怖に硬直してるっつーより、アンタに驚愕して動けなくなってると思うんすよ?」 「は?オレ?何でだよ?確かにオレは村の外から来た人間だけど、其処迄外からの訪問者が珍しい村でもねぇだろ?」 「オレを制止、其れも腕1本、しかも折れそうな細腕1本で軽々と制止したから、っすよ」  言っていて少しだけ虚しくなった。  今迄どんな人間相手にも劣る事なく、些細な抵抗を許す事さえなく、正確に、的確に、屍骸へと変えていたのに。  其れを阻んだのが自身と推定同世代、自身よりも細い体付きの少年であるなんて。  惨殺に於いて被害者さえも含めて、誰かを気にした事は無かったものの、此れには流石に自尊心めいた物が若干傷付く。  更に追い討ちを掛ける様に、眼前の闖入者はリシファの言葉が理解しかねるとでも言う様に、きょとんとしているのだから尚更だ。  とは言え、リシファの行いは村の中だけで完結している。訪問者に手を出す事が主だが、死者は語らず、無事村から出られた5人の中の1人は、此の村の“いわく”を知る術が無い。其れ故リシファの惨殺を知る村人以外の生きた存在は居ないのだから、村の外から来たと言う此の少年の反応も不自然ではなかろう。  其れでも時分を抑えたから歩けない程驚愕してる、なんて自己申告をしての此の反応、そうした事を意識しないリシファにとってさえ何処か惨めに感じられてしまう。  幸いなのは、リシファの訴えに先程迄組み敷いていた少年が、こくこく必死で頷いてくれた事か。 「オレは何度も人を殺してきた。其の確実性と速さから、仮に往来のド真ん中で殺したって誰の目に留まる事さえなかったんすよ。気が付いたら屍骸が転がっている。どんな人間が相手でも、どんな人間が傍にいても、オレの惨殺を防いだ相手はいなかった。アンタが初めてなんす。此の村の人間は其れをよく知ってるから、容易にオレを止めてみせたアンタに腰抜かしちまうのは、自然な事っすよ」  少年は壊れた人形の様に、ただひたすらに頷く。  其の説明で闖入者も納得したらしく、成る程と小声で呟いているものの、納得出来ないのはリシファの方である。  何故自分を止める事が出来たのか。暴かずにはいられない。知らぬ振りは出来ない。 「で?そんなオレを軽々止めたアンタは何者なんすか?」 「オレは勇者だよ」
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