勇者は少年を掬います

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 勇者。  勇者ギルドに登録すれば其れを名乗る資格が与えられる。一種の業種といった所だ。其れ位の知識はリシファとて幾ら興味関心が無くても持っている。  物心付く前は“武器”に幼くして興味を示す、将来有望な勇者候補だと口々に言われていたらしいし、勇者の少ない村に住みながら其れなりに身近にあった言葉ではある。尤も実際にリシファが興味を示していたのは“武器”ではなく“凶器”であり、幼くして誰しもが恐れる殺戮者になったのではあるが。 「何?勇者だから一般人の剣くらい、軽々受け止められるって?」 「いやいや。勇者はただの職業だからな?勇者になったからって、誰しもが活躍出来るワケじゃねぇよ」 「じゃあアンタは其れなりに実力者だと」 「……まあ、やっとギルドが下す評価を見ても、実力者だって名乗れる様になってきた、ってトコロか?」  遠慮がちに、謙遜混じりに闖入者は語った。  しかしリシファにとっては其の辺りの都合など分からないし、知った事ではない。勇者という言葉は先述の理由から身近であったものの、リシファ当人に興味は薄く、リシファが幼くして惨殺を繰り返す様になってからは誰しも、リシファは将来有望な勇者である、と言わなくなった。  当然と言えば当然の結末であり、リシファとしては何も感じていない。加えて腸を引き摺りだしたり、脳みそを潰している方がリシファにとって遥かに愉意義で、楽しかった為、毛頭他の道なんて浮かんでいなかったのである。  だから勇者の諸事情や仕組みなど知らない。ただ問題があるのなら、勇者であればリシファの惨殺を阻害出来てしまう危険性、そしてリシファを阻害出来る人間が少なからず存在する危険性であった。  所詮井の中の蛙というヤツか。そう呆然としたワケではない。己の実力等、今の段階で申し分ない惨殺を施せている為嘆く部分は無い。ただ、己の惨殺が阻まれる危険性があるというのは、問題だ。  ただでさえ此処暫く訪問者が居ない所為で人を殺せず、苛立っていたと言うのに。現状よりも苛立たしい羽目になるなど、出来れば忌避したい。  そうしたリシファの思惑を知ってか知らずか、少年は左手を小さく宙に翳す。其れだけでリシファの眼前に文字列が浮かび上がった。 「オレはさっきも言った様に勇者。名前はレイティシアだ。此処へは何かがある様に思えて来た、ってトコかな」
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