勇者は人を助けます?

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 不幸中の幸いであってのはパーティの誰も怪我をしていなかった事だろう。そもそも吸血竜の1撃なんて喰らった暁には、現状の防具や加護では、痛い苦しいなんて感じる暇もなくお陀仏だろうが。  そう思うとぞっとするし、素直に無事を喜びあいたいのだが、何分場所が悪い。  不穏な空気、鼻が曲がりそうな異臭、打ち捨てられ、無法地帯と言うに相応しい裏通りは、レベルの高い魔獣を相手にするより性質が悪いかもしれない。  同じ人間である筈なのに話が通じない。身包み全部剥がされた挙句殺される危険性だってあるいし、縦しんば殺されなくとも奴隷として売られる危険性だってある。  少なくとも今の様な生活とは別れを告げなければならない。  裏通りの住人に太刀打ち出来る程腕っ節の強い、或いは魔力の優れた者であればまだしも、そうでない上に彼等に渡す賄賂も持ち合わせていない者に出来る事は1つ。  絶対にバレない様に注意して、裏通りを去る事だ。  パーティ内の誰からともなく小さく頷いて、其の場を去ろうとした時に。  運悪く裏通りの更に奥から人影。  如何する。此の儘走って逃げるか、其れとも立ち向かうか。今なら不意さえ付けるかもしれないし、逃げても後ろ姿を見留められれば追われるんじゃ。  本来ならそう思考する事さえミスである。逃げてしまうにしても、不意を付くにしても、一瞬でも迷えば裏通りに於いてもダンジョンに於いても命取りだ。何度も聞かされたし、ギルドの役員にも再三注意されていたというのに、いざという時、パーティの誰もが実行出来なかった。  実行出来ずに2案で迷い、迷ったと同時に其れは2つともなくなる。  ああ、折角吸血竜から逃げ出せたというのに。そんな後悔がパーティの間に流れた。せめて奴隷として売られるのではなく、一思いに殺して欲しい。いっその事吸血竜に殺された方が楽だった。そんな諦観と後悔が嫌でもパーティを包み。 「……あ、れ?ちょっと、待って」  突如、恐怖に震えた、しかし何処かに希望を含んだ声があがる。  覚悟を決めようとしていた事もあり、突如上がった声に何故こんな時に、と不満を、しかし其の声に微かな希望を感じた為、何か策でもあるのかと期待を込めて皆は声の主に視線を向けた。
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