勇者は少年を掬います

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「……は?」  驚愕した。凄く驚愕した。先程の驚愕を上回る程に、本当の本当に驚愕した。  レイティシアは何と言った?勇者に?誰が?  そんな事は無い筈であるのに、リシファは思わず周囲へ視線を投げた。もしかしたらリシファ以外の誰かが居るやもしれん。例えば、先のガキ大将気取りが戻ってきたとか。  無論周囲はリシファとレイティシアの他誰も居ない。加えてレイティシアの目は真っ直ぐにリシファを捉えている。此れでリシファに話し掛けていないのだとしたら却って不自然だろう。  しかし、そうした状況を踏まえても尚、今正にレイティシアから発せられた言葉は理解に苦しむ、不自然極まりない物だった。  幼少期、其れこそ物心付く以前の村人であれば口を揃えて将来は高名な勇者になると言っただろう。或いは現在であってもリシファの技術だけを見れば、感嘆し、そう述べる人間もいて不思議は無い。  だがリシファの技術は全て人間を惨殺し、屍骸を積み上げる為だけに駆使される。如何に残虐に殺すか。如何に惨状を作りあげるか。リシファにとって其れが全てであり、剣技も体術も全ては惨殺の為に在る。  加えてレイティシアは先程正に其の目で、リシファがフラストレーションを爆発させ、ガキ大将を組み伏せた、其の一連の流れを全て見ている筈だ。右手に握った小刀を、組み伏せた相手の口の中へと押し込もうとした事も。  本来であれば普通認識さえ許さない素早い流れではあるものの、レイティシアは其れを全て目撃した。言い訳をするつもりは毛頭無いが、つまり未遂に終わったとは言え、レイティシアの前ではリシファは言い訳の余地なく殺人犯である。正に現場を押さえられた。  其の上リシファはレイティシアに自らが重ねてきた惨殺を語っているというのに。 「月並みな言い方だけどな、お前の腕は凄い。其れなら勇者になって役立ててみねぇ?ってお誘いだよ」 「……勇者って頭空っぽなんすか?其れとも、何?勇者になれば思う存分人を殺してもお咎め無しなの?」  尤も幸か不幸か、今日迄リシファは咎められた事が無い為、勇者が咎を負う事なく殺人を行えるとしても然程魅力には思わないが。  レイティシアはリシファの言葉に苦笑を浮べる。脳筋呼ばわりについて腹を立てた様子すらなく、寧ろ此の展開ではそう判断されても仕方ないと受け入れている様でさえある。
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