勇者は少年を掬います

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 高ランクを得ていれば、少しは自尊心が無駄に高くなり些細な批判にも、少なからず苛立ちを抱きそうなものではあるが。そもそも高ランクどころか勇者でなくとも頭が良くないと面と向かって言われれば、大なり小なり苛立ちを覚えるものだろう。  あっさりと何も気にせず笑えるのは、本当に馬鹿で何を言われているかも分からないか、或いは其れと正反対に器の大きさ等々からそういった些細な暴言など、蚊に刺された程の不快感さえ抱かないか何方かである。そして眼前で苦笑するレイティシアは後者の様に思える。少なくとも前者ではなかろう。  とは言え、レイティシアの場合、此の短い時間だけでも自尊心が馬鹿みたいに高い人間ではなさそうだというのは明らかであったが。 「力に特化した勇者もいれば、頭脳に特化した勇者も居るよ。一応オレはこう見えても参謀寄りなんだけどな。……此の儘殺戮を繰り返すのは、お前にとって危険だっていう忠告も兼ねてる」 「今迄露見せずにやってきてるっすよ。そもそも危険な目に遭う様なヘマはしねぇっす」 「今は、な。だが何時お前がギルド指定の“凶悪生物”に認定されるかは分からない。其れより先に勇者になっちまった方が安全が保障される。勇者であれば滅多矢鱈な事を仕出かさない限り、凶悪生物に認定される事もないだろ。良いんだか悪いんだか分からないシステムではあるが、大抵の過去も水に流される。勇者ギルドに入ってからが全てだ」 「オレの過去って大抵の過去じゃないと思うんすけど」 「だからこそ尚更だ。お前だって突然Aランクの勇者が大量に押し寄せてきて、嬲り殺される羽目にはなりたくねぇだろ」 「なんすか?勇者って其処迄すんの?」  1人の子供を寄って集って嬲り殺す。勇者という字面からはあまり想像出来ないし、想像もしたくない光景である。  尤も其の子供が惨殺を繰り返したリシファである以上、当然の対策と言えば当然の対策であるやもしれぬが。  今迄、正しく今迄であれば勇者の団体など、幾ら増えれど烏合の衆だと鼻で笑い飛ばせただろう。しかしリシファの殺戮はレイティシアにあっさりと止められた。抑えられた腕は動かす事も叶わなかったし、小刀は何時の間にか没収されていた。  其れを成したレイティシアのランクはB+だという。勇者として十二分。其の2個上をいくAランクの集団ともなれば殺戮を重ね続けたリシファとて、文字通り嬲り殺しにされるだろう。
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