勇者は少年を掬います

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 自ら血を撒き散らし、生理的反応とは言え糞尿に塗れ、体の中身という中身全てぶち撒けた屍骸にされるのは御免である。生きたいという本能的欲求よりは、本来自分が誰かに成すべき所業を自身に施される事が我慢ならない。加えてまだまだ誰かを殺戮する事に満足出来ているとは言い難い。  もっと惨殺したい。自分の歩んだ後に屍骸を積み上げたい。今の数は勇者ギルドにちらりとでも露見すれば晴れて凶悪生物認定を受ける程なのだろうが、リシファにとってはまだまだ不足なのだ。こんな所で殺されてはいられない。  レイティシアの言う様に勇者ギルドに入り、少なくとも世間の目にはリシファが積み上げた屍骸達が罪の数としてカウントされず、余程の事を成さぬ限り凶悪生物にも指定されないのであれば、此れは隠れ蓑に適切であるやもしれん。  しかしながらリシファには即断出来ない理由がある。無論、勇者ギルドに入った後の殺戮についてだ。  余程の事をしない限り、凶悪生物には指定されない。  余程の事、というのは便利な言葉だろう。明言を避け、境界を上手くぼかしている。しかし其れこそ余程の後ろ盾なんかがあれば未だしも、リシファが今日迄行ってきた殺戮は、余程の事になるだろう想像は容易だ。  まさか勇者に人を殺すだけの権限は無いだろうと殆ど諦めつつ、レイティシアに問うてはみる。 「で?やっぱ人殺すのは余程の事で、お咎めありっしょ?」  正に駄目元。まるで期待をしていなかった問いに、しかしレイティシアは多少予想外の反応を見せた。  勿論と即答する事もなく、苦笑を浮べて肯定する事もない。  少し苦々しい表情を見せ、数度空へ視線を投じたかと思うと如何にも言い難い事を言う様に小声になって切り出した。 「お前が今迄にやってきた様な殺戮は確実に咎められるだろうな。でも、相手が凶悪生物認定を受けた人間ともなれば話は別だ。大抵Aクラスの奴等に回される任務だけど、横から掻っ攫う事も出来る。……其れと現役勇者としてこんな事を言うのはなんだが、鍛錬の為の魔獣退治や依頼を受けての魔獣退治で剣を振るう事は、多少代用品になると思う」 「幸いと此の村に魔獣はいないんで遭遇経験もないっすけど、まあ、一応生き物の肉を突き刺し、臓器の類も刻めるワケっすからねぇ。別に肉裂く感触や血のニオイが好きってワケでもないんすけど」
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