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あくまでリシファが好ましく思っているのは惨殺である。其れも人間を相手にした。
悲鳴が聞きたいのでもなければ、肉裂き、臓器を潰し引き摺り出す感触に飢えているワケでもない。ただ惨劇を作り出すのが如何しようも無く楽しい。
其処に纏わる物語等関係無しに、ただ現場が悲惨であればある程良いという意思くらいはリシファの惨殺に於いてあると言えるだろう。だからこそ現場が血に塗れ、其処等に臓器が転がり、糞尿が撒き散らされて、という状況を作り上げるのだ。其れを魔獣で再現するのは恐らく物足りないだろうが。
ちらり、とレイティシアの目を改めて窺った。
人の心を正しく汲む事等困難である。まして今会ったばかりで、かつ今迄リシファが会った事のない性格をしているとなれば尚の事。
其れ故、レイティシアが何を思い、或いは何を狙ってリシファを勧誘しているかはまるで分からない。そしてリシファ自身、自らの感情の動きが掌握出来ない。
己が手を離れて感情が暴走している。殺戮中で恍惚状態にあるワケでもないのに、自身の感情や思考が確かにリシファの手を離れて勝手な考えを構築していた。
レイティシアは言い難そうにしていた。
現役勇者の言う事ではないと前置いた。
其れにも関わらず話の間中は、リシファの目を見つめたまま。其の双眸は、リシファを腫れ物の様に距離を測る両親を始めとした大多数の大人の物とも、怯える物とも、憎む物とも違う。
最古の記憶より惨殺死体を前に立っていたリシファにはまるで向けられた記憶のない、心底から真摯にリシファに向き合おうと考えている様な目。
或いはレイティシアはリシファを欺こうとしているやもしれない。
こうしてリシファを、其れなりに甘言に聞こえなくはないだろう言葉で騙し、村を連れ出して殺害に及ぶ気やも。
誰も見ていなければ、或いは誰かがリシファ殺害を訴えなければ罪にはならない。或いは先程正にレイティシア本人が言っていた様に、もしもとっくにリシファが凶悪生物と認定されていれば。大衆の面前でリシファを殺そうと、レイティシアは罪に問われず、勇者としてランクアップするのだろう。
其の危険性さえ踏まえた上で、リシファは首を縦へと振った。
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