勇者は少年を掬います

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 リシファの殺戮を初めて阻み、まともな会話を交わして、リシファを真剣な眼差しで見つめた。そんな初めて尽くしのレイティシアに興味が湧いた事が大きいだろう。  身の安全を保障された上で行える殺戮も、今迄積み上げた屍骸が罪としては無い物となる事も、結局は言い訳でありリシファの中で大した目的にはなっていなかった。何となくレイティシアの手を取れば現状の只管願望を満たす為、人を刺し、潰し、引き摺り出す生活よりは楽しい物が待っている様に思えた、というところか。  仮に代償として今迄の生活、血に塗れ、好きなだけ臓器を踏み潰せる生活を捨てたとしても。  ……そしてもしも。もしも、レイティシアが本当はリシファを殺すつもりであったのなら。  怪我をせずにというのは不可能であっても、己が全力で抵抗し、立ち向かえば、如何にかこうにかレイティシアを積み上げた屍骸の1つにする事は不可能ではないだろう。  其の未来についてはあまり考えたいとリシファは思わなかった。初めて見付けた面白そうな人であるレイティシアが其の他大勢に堕ちる様を、リシファの勝手な言い分ながら見たくはなかったのだ。  何処かで微かに寄せた信頼を裏切られたくないという子供らしく、人間らしい思いが芽生えてもいたのかもしれない。  兎も角も此の時リシファの道は決まった。笑ってみせる。  凶器を持たず、血とも無縁で。そんな中笑ったのは何時以来か。思い出せない。そして浮べた笑顔は、果たして笑顔と呼べる程整って、欠片でも純粋さなんて物をぶら下げているだろうか。  詮無きことを考えつつ、リシファとしては笑って、そしてレイティシアの手を取る言葉を口にする。 「現役勇者サマに其処迄言わせちゃったんだし、まあ、ギルドに申請くらいはしてみるっすよ」 「ああ!よろしくな。……えっと」  無邪気な笑顔で明るく告げられた後、レイティシアが何やら困った様な顔を見せる。如何したのかと首を傾げたのは一瞬で直ぐに得心がいった。  今迄こうした会話さえした事はなかったから。だからきちんと其れをするのも、レイティシアが初めてである。そう言えばされる側も初めてか。  名乗り、名乗られる。そんな事さえしないで来た己の十数年が如何に歪んでいるのか。其の自覚が出来ない事さえ歪んでいるのやもしれないが、其れでもレイティシアが与える物はリシファを一々驚かせた。そして其処に不快感は一切無い。
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